シリーズ 「職場」    2006.6
“成果主義”追って 新制度導入の
  横河電機−
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    (上) 働く誇りはズタズタ       (下) 労組要求で評価公表へ

 
(上) “あなたの仕事はこの程度”
       … 働く誇りはズタズタ


 横河電機 (本社=東京・武蔵野市、従業員5,200人) の製造工場で働く労働者が仕事帰りにいいました。

   提案あっても 出さない人も

 「あなたの仕事はこの程度だと給料を下げられて誇りはズタズタです。 2年半で職場の雰囲気は大きく変わりました。自分の職務以外のことはやらない。 『おれ、提案いっぱいあるんだけど出さないんだ』 という人がいる。 ものづくりの職場がおかしくなる」

 横河電機は計測機器、生産制御システムで業界トップクラス企業。

 2003年10月、労働者に 「MS」(ミッション・スタンダード=役割基準) という成果主義賃金制度を導入しました。

横河電機本社
=東京・武蔵野市

 年齢と資格を中心にしたそれまでの制度は廃止されました。 代わって、付加価値を生み出すのに貢献した度合いによって処遇するという制度です。
 賃金が上がる人が約65%、下がる人が35%ということでした。

 MS導入前、50歳代の労働者の多くは年齢や経験を評価されて最高クラスの7級、8級でした。 このクラスが全体の半数を超える賃金構造でした。 会社はここに切り込んできました。

 製造現場ではベテラン労働者の多くが等級を旧制度からいきなり2つから3つ下げられました。 各級4万円(月給)刻みなので、月8万〜12万円の減額です。 20万円以上下げられた人もいます。

 中高年齢層の賃金をばっさり削った上で若年層に配分しました。 その平均は1万数千円程度とみられます。 このやり方で会社は導入時、総額月2,000万円削減しました。 月給40万円の労働者を50人減らしたのと同じことになります。

 「MSでは製造現場の評価は低い。 一生懸命やれば評価されるといっても、この仕組みでは元の給料に戻れない」、と先の労働者はいいました。

 MS制度の基本は 「役割給」 です。
 担当する職務の責任の重さや難易度で8ランクに分けて格付けします。

 上司の指示に従って決められた方法で行う仕事は最低ランクの2〜3級。
 高度な専門知識を要する仕事が最高ランクの8〜9級です。
 2級は20万円、9級が48万円です。
  (左の図)

 これに、仕事の過程を5段階で評価する 「プロセス給」 がゼロ円から最高4万円まで上乗せされます。

 図面に基づいて製品を作る製造部門では、リーダーにならない限り 「上位者の指示のもと」 でする仕事という評価で5級以下になる、と労働者から批判の声があがりました。 実際その通りになりました。

   より高い部署に昇格しなければ

 会社は導入の目的を 「高い成果をあげた人により高い報酬で報いる」 ためと説明しました。 しかし、労働者一人ひとりは会社が配属した部署で働いています。 より評価の高い部署に昇格しないと級は上がりません。

 「『いままで会社からの業務命令でやってきた仕事 (役割) なのに、制度変更により給与が下がるのは納得できない』 という声が出てくることもある意味で当然である」

 MS制度導入を担った、同社の石河正弘人財労政部長(当時) 自身がこう認めていました。

 2003年、日本経団連が出版した 『最新成果主義型人事考課シート集』 に同部長が書いています。

 給与が下がる人に対して会社は減額分の30ヶ月分を一括払いしました。

  「その間でより高いMSを担えるよう会社、個人双方で努力する」 (同部長) ということでした。


出勤する横河電機の労働者
=東京・武蔵野市の本社前
 5万円以上下げられたある女性労働者は、「2年たって元の給料に戻ったという人がいるという話は聞きません。 あのとき何百万円ももらって多くの人が黙ってしまった。 生活が苦しくなるのはこれからです」 と語りました。  (つづく)

 (以上 (上) の出典は  「しんぶん 赤旗」 2006年6月20日付)


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(下) 労組要求で 評価公表へ

 東京・三鷹駅から程近い横河電機本社前のある朝、出勤する労働者が次々にビラを受け取って門を入っていきました。 毎月2回、全日本金属情報機器労働組合 (JMIU) 横河電機支部が行っている宣伝です。


出勤する労働者に本社前でビラを手渡す
JMIU横河電機支部の組合員=東京・武蔵野市
 この日のテーマは 「年齢別最低賃金」 の導入です。 成果主義賃金のもとでも、青年、子育て世代、中高年それぞれに人間らしい生活を保障する最低賃金を給与に組み入れ、労働者の不安にこたえよという要求です。

 会社側は、成果主義賃金、MS (ミッション・スタンダード=役割基準) 制度の考えと180度違うとして拒否していますが、JMIU支部には 「がんばってくれ」 と激励が寄せられています。

 同支部の粘り強い働きかけの末、会社側はこの6月から労働者に対する評価を一部公表することに応じました。

 プロセス給と一時金の金額決定の経緯を本人に説明し、プロセス給の5段階評価と一時金支給月数の分布を全体に公表することになりました。

   6 割の従業員 … 基準に否定的

 MS制度の運用に関して最も批判が多いのが評価の問題です。 同支部が昨年12月に行ったアンケートでは77%が 「評価に納得できない」 と答えました。 会社の調査でも、6割前後の従業員が評価基準に疑問を持ち、否定的に答えています。

 「評価する管理職の体制は以前と同じです。公正な評価といってもやれっこない」 とある労働者はいいます。「マネジャーだって使いやすい人をそばに置きたい。 いくらがんばってもその人たちが成果を持って行ってしまうんじゃないか」 と語った人もいました。

 JMIU支部は、今回の会社の決定を「必要な情報開示の第一歩」としつつ、さらに、評価される本人に 「個別評価項目の考課点」、「所属グループでの相対的位置」 を知らせるよう会社側に求めています。

 横河電機の多数派組合は JAM (連合加盟) 横河電機労組です。 MS制度については会社と事前に協議し、導入を了承していました。 JAM組合員の間で全員投票を求める声があがりましたが、執行部は応じませんでした。

 JMIU支部はMS制度が賃下げをもたらし、職場から活力を奪う危険があることを全労働者に知らせました。 導入が発表された2003年5月から12月にかけて同支部が発行したビラは17種にのぼりました。 会社との団体交渉では、合意のない導入はしないことを確認させました。

 JAMの組合員には同年10月からMS制度が導入されました。 JMIU組合員にはもとの賃金制度が適用されました。 しかし会社側はJMIU組合員に対し、MSを受け入れてないことを理由に、JAM組合員とボーナスで差をつけた回答をしました。

   不当労働行為 救済申し立て

 JMIU支部は東京都地方労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てました。 昨年9月、同支部がMS制度を受け入れ、会社は改善のための協議に応じるという和解協定が結ばれました。

 改善協議は昨年10月から6回にわたって開かれました。 評価の一部情報開示はこの協議での合意事項です。

 会社側は基本給以外の給与についても成果主義の発想で見直しを進めています。 今年4月には家族手当が廃止されました。

 JMIU横河電機支部の大河内勝委員長は 「会社は “人財” という言葉を使います。 従業員を財産と考えるのなら、労働者の生計費を保障する賃金を、という私たちの主張を会社は真剣に受け止めてほしい。 それが企業の社会的責任でもあると思います。 労働者から強い期待を感じています」 と話しています。

                                               (おわり)


 (以上 (下) の出典は  「しんぶん 赤旗」 2006年6月21日付)


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