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“成果主義人事制度の見直しを検討する”              という企業が 7割 を超す!
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 “ 成果主義 ” をいち早く導入した富士通では、いまどうなっているでしょうか。

  「しんぶん赤旗」 が2005年4月19日からリポートを連載しています。
  了解を得てここに転載します。

   (クリックするとそこへジュンプします)
(1) 社長 “告発本は事実” (2) チャレンジ精神失う
(3) 社長から突然メール (4) 幻想に追随の他社も


(1)
 社長“告発本は事実”


 富士通の黒川博昭社長は、マスコミ関係者との懇親会の席上で、「私も読んだ。書いてあることは基本的には事実」と認めたといいます。今年1月10日のことです。

 「私も読んだ」というのは、『内側から見た富士通−「成果主義」の崩壊』(光文社刊)のことをさします。黒川社長はこう続けました。


富士通本社(汐留)

 「成果主義をいち早く導入し、失敗したが、これも一つの勲章だ。他社にこの教訓を参考にしてもらいたい」

 この本は、同社の元人事部に所属していた 城 繁幸さん(ペンネーム)が成果主義導入後の富士通の凋落(ちょうらく)ぶりをつづった内幕ものです。25万部のベストセラーとなり、社内でも大きな話題となりました。


    弁解の余地はない

 当初、富士通は「そんな人物(城氏)が在籍していたかどうか知らない」などと無視を決め込んでいました。しかし、人事担当者でないと知り得ない数々の生々しい実態を暴かれ、弁解の余地がなくなりました。

 「社員が日ごろおかしいなあ、と薄々感じていたことが、告発本で裏付けられた形になりました。なぜ公正、公平とはいい難い評価が行われていたのか、この本ですべて明らかになりました。書いてあることは事実だよ、と公然という幹部社員もいます」と男性社員は話します。

 著者の城さんの元へも反響が殺到しました。多くが富士通社員からのものです。

 「脅迫めいたものはありません。ほとんどが激励の声です。リストラで解雇された入たちからも、なぜ解雇されるに至ったのか本を読んでよくわかった、というお便りもいただきました。私はこの本で富士通の凋落の背景にある真実を伝えたくてペンを取ったのですが、これほど大きな反響があることに驚いています」と城さん。

 富士通の成果主義は目標管理制度が柱になっています。半期ごとの期初に個々の社員が目標を提出し、直属の上司と話し合う。期末にまた上司と面談して達成度を話し合い、半期の評価が決まるというものです。評価が高ければ賃金がアップし、昇進も可能になるといわれていました。

 しかし、それは建前にすぎませんでした。


    評価委で決定

 部長で構成される事業部ごとの評価委員会ですべてが決められていました。評価委員会では、個々人の目標や一次評価者(直属の上司)の評価とコメントが書かれた「目標シート」は読まず、あらかじめ人事部が用意した成績分布の比率にそって調整するだけでした。

 「当時、人事担当として成果主義が失敗していく様子を目の当たりにしました。部長間の“力関係”や残業時間が多いかどうかで評価が決まってしまう。従来の年功序列賃金と何ら変わらない、驚くほどずさんなやり方でした。これで社員の士気が低下しない方が不思議です」と城さん。

 「成果に応じて賃金が上がる」などともてはやされ、年功序列賃金に代わる人事制度として注目を集めた成果主義。しかし、導入から12年たった現在も職場に根付かない成果主義をどう見ればいいのでしょうか。

    ◇◇◇

 成果主義の導入を急ぐ財界、大企業。その一方で、成果主義の破たんがあちこちで起きています。日本企業の先陣を切って導入した富士通がまたもや手直しを迫られているのは象徴的です。

 混迷が続く富士通のいまをリポートします。



 <年功序列賃金>
 勤続年数による熟練と企業への貢献度を中心尺度とした賃金制度。定期昇給で賃金は毎年アップしますが、若年層の低賃金を温存するとともに、企業への帰属意識を高める役割を果たしています。

                               (つづく)


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 (2)   チャレンジ精神失う


 「成果主義をやめたらどうか」。富士通では役員の間でも数年前からこうした議論がもち上がっていたといいます。

 「目標達成にこだわるあまり、高い目標を設定しなくなった」

開発部門の総本山・川崎工場

 「5年、10年といった長期の視点に立つ大局的な仕事をだれもしなくなった」…

社員のやる気を最大限に引き出そうとして導入したはずの成果主義ですが、実際にはそのねらいとは裏腹に、さまざまな弊害があらわれました。経営陣にとっても放置できないほどの深刻な事態に陥っているのです。

 「導入当時、社長はこういいました。“要領よく手を抜きなさい。成果は時間じゃないよ”と。しかし、一年たったら会社はその間違いに気付いたんですよ。むしろ社員は目先の成果に追われ、失敗を恐れてチャレンジ精神を失っていきました」と50代の男性社員は話します。


      手直しの連続

 富士通は1993年、米シリコンバレーの情報技術(IT)系企業の給与体系をモデルに他社に先駆けて導入しました。ところが、発足数年で早くも問題点があらわになりました。「目標を達成しても評価が下がる」「達成率を上げるために目標を低く掲げる」といった状況が生まれ、社内の不満は高まりました。導入以降、手直しの連続。弊害は解消されず今にいたっています。

 評価は、「SA」「A」「B」「C」「E」の5段階。目標が達成されたと判断されれば評価で、目標を上回る成粟を上げればSAとなります。しかし、人事部によって、SA10%、A20%、B50%、C20%とあらかじめ人員割合が決められていて、目標を達成しても、B評価になるケースが続出しました。

 目標を達成したのにB評価にされたという40代の男性社員は、「なぜ評価なのか」と上司に問いただしました。すると上司は「君より○○さんの方ががんばっていたから、がまんしてくれ」といいました。


     形がい化進行

 「成果を上げても、他人を押しのけない限り、高い評価を得られないシステムになっている。なぜ自分がB評価なのか、という疑問をもつ社員は大勢いるはずです」と同社員は話します。

 この反省から、一次評価者(直属の上司)の評価をそのまま認める制度に変更したことがありました。すると、今度はA評価ばかりになってしまい、人件費が上がり、結局全員の給与を減額するという笑うに笑えない状況も生まれました。

 成果主義の形がい化が進行しています。期の半ばを過ぎるまで目標を設定しない社員がすでに半数以上にのぼっています。3割程度の社員は残りの1カ月になってからで、それも人事部から督促されて、ようやく目標を立てている状況です。

 「評価が低くてやる気を失っている社員のしりをたたくのが管理職の大きな仕事になっています。私の職場では課長が毎日現場に張りつき、怒鳴りまくっています。成果主義が社員のやる気をそぎ、精神主義でそれをカバーしている」と男性社員は苦笑します。

 成果が上がらなければ部長や課長の責任が問われます。男性社員の所属する職場では、責任をとって3人の管理職がリストラ対象の閑職に追いやられました。

                               (つづく)


   
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 (3)
  社長から突然メール



 「現在、私のところに成果主義についてのメールが多く来ています。批判的なものも多くあります。過去のことをいろいろ言っても仕方がありません。ここでは、富士通の成果主義について、私がどう考えているかを過去の経緯を含めてお伝えしたいと思います」

 富士通社員の元へ突然、そんな書き出しで始まるメールが届いたのは昨年の11月初旬のことです。送り主は黒川博昭社長でした。

成果主義の手直しを打ち出した社長
(社内報 「FUJITSU」 から)

 そこには、成果主義を正当化する一方、こんな記述がありました。

 「上司が承認した目標を達成したにもかかわらず、組織内の成績分布を守るために評価が下げられるということが起きた」「個人が目標達成を過度に意識したため、高い目標をさける傾向や考え方が出てきた」


     弊害を認める

 社長直々に弊害の事実を認める文書を出すのは異例のことです。

 「告発本が指摘した事実を否定しきれず、社員への釈明と一定の手直しを迫られたのではないか」と社員たち。

 メールには、「個人より組織の成果を重視する」という新たな成果主義の提案がありました。2005年度から実施したその成果主義は管理職に適用されます。適用状況を見極めた上で、一般社員への導入を検討するとしています。

 「改革」の内容は次のようなものです。

――「組織の成果評価を実施する。次に組織の中で、個人の貢献について評価する。社員はフォア・ザ・チーム(チームのため)で行動することが大事になる。

――事前に設定した目標の達成度で評価しない。目標に向かって努力し、実現した成果そのもので評価する。

――組織の成果評価により、公正に賞与の原資を組織に配分し、組織内の個人に配分する(個人への配分は、組織責任者の決定に委ねる)。

――高い評価(SA)については、組織内でオープンにする。それにより組織が何を求めているかを共有する。

――昇格には成果評価の成績は利用しない。

 これまでの成果主義と最も異なる点は、評価の単位を個人から組織(部)に重点を移し、チームワーク重視の方向に転換したことです。


      社員は疑問視

 関係者によると、この「改革」には成果主義の生みの親である人事部が激しく抵抗しました。結局、社長の決断で断行されたといいます。

 しかし、この「改革」で公正・公平な運用がおこなわれる保証はどこにもありません。

 「個人の努力いかんよりも所属する部署の重要度や業績の良しあしで個人の評価が決まる確度がより高くなる。いずれにしろチームの業績を個人の評価にあてるには無理がある。矛盾は避けられない」と40代の男性社員は疑問視します。

 『内側から見た富士通−「成果主義」の崩壊』の著者、城 繁幸さんは「評価の判断を現場に委譲したのは一定の前進」といいます。

 そもそもチームワークが低下したのは成果主義の導入がきっかけ。公正な評価基準が定まらず、人件費削減を目的にしている限り、いくら手直ししても根本的な矛盾は解消しないでしょう。

                               (つづく)


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(4) 幻想に追随の他社も


 『内側から見た富士通−「成果主義」の崩壊』の著者の城繁幸さんは、富士通の人事勤労部員だった当時、セミナーで学生相手に何度となく成果主義がいかにすばらしいものであるかを語って聞かせました。

 「成果主義の理想論を話しました。すでにうまく機能していなかったにもかかわらず。苦い体験です」と城さん。

成果主義導入12年になる富士通
(神奈川県内の工場)


     広告塔の役割

 「成果主義は富士通のシンポル、広告塔の役割を果たしていましたから。成果主義の導入でこんなにもよくなった、と他社にも積極的に売り込んでいました」

 こういった富士通の戦略が功を奏したのか、富士通に続けとばかりに成果主義の導入を急ぐ企業が相次ぎました。

 現在では、上場企業の7割以上が何らかの形で成果主義を導入済みで、その流れは中小企業、公務員までひろがる状況です。たとえトップランナーの富士通が迷走をしようとも、なおもしがみつくというのが、利潤第一を貫く日本の大企業・財界の方針のようです。

 当然のように、成果主義の行き詰まりは富士通だけではありません。

 民間調査機関の労務行政研究所が昨年12月から今年1月に実施した調査(東証一部上場企業97社)でも、成果主義を導入している企業のうち、自社の制度に「問題あり」と答えたのは、経営者側88%、労働者側94%にのぼりました。

 理由で最も多かったのは、「目標管理制度」(目標の達成度で評価する制度)。労資とも9割以上があげ、「上司が公平に評価していない」「チームでの業績を個人の評価にあてるには無理がある」としました。

 「日本では、ほとんどが富士通と同様の目標管理制度を導入しています。この制度を採用しているどの業種の企業もうまく機能していません」と城さんはいいます。

 制度の形がい化にとどまらず、社員に多大な犠牲を強いているのが成果主義です。長時間労働が恒常化し、年間に有給休暇を一日も取得しない組合員が全社で二千人を超えます。精神疾患が急増し、長期休職の大半が精神疾患です。

 労働時間の長短にかかわらず、成果による評価をより報酬に反映させる目的で、抱き合わせで導入された裁量労働制がその背景にあります。


     意欲をそがれ

 「もう後戻りはできない」。富士通の役員はそう公言している、といいます。いったん導入した限りは、どこまでも突き進むつもりなのでしょうか。いくら手直しで取り繕っても、成果主義が社員に受け入れられる日が来るとは思えません。成果主義への幻想を断ち切らない限り、企業の再生もまたありません。

 「成果主義が導入される以前は、少なくとも社会に役立ちたいという思いがあり、仕事がいくらつらくても救われるところがあった。しかし、現在は成果という“物差し”"だけで唯一評価され、意欲をそがれてしまった。成果主義が富士通をだめにした」と男性社員はいっています。

                                     (おわり) (2005年4月23日)


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