シリーズ 「職場」    2006.8
 “成果主義”追って 『ボトム10』の反撃
  日本IBM−
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1. 組合が退職強要止めた 2. 社長 “退職目標こなせ”
3. 「最高に腹立ってます」 4. たたかって会社動かす  (おわり)

 
  1. 組合が退職強要止めた

共同行動で争議の早期解決や退職強要の中止を求める
JMIUの組合員=6月28日、東京港区の日本IBM本社前
(JMIU日本アイビーエム支部撮影)

 この夏のある日。 全日本金属情報機器労働組合 (JMIU) 日本アイビーエム支部に 1通のファクスが送られてきました。

 「作為的な評価で退職強要されたため、加入させていただく決心をしました。 だれもが会社生活を全うできるよう協力していきます」

 組合への加入申込書です。 門池委員長は 「こういうように労働者が組合を頼ってきます。 駆け込み寺ですよ」 といいます。


   人減らし

 新加入者の状況を聞いて、組合は行動を開始します。

 退職を強要した管理職に組合役員が 「退職強要は違法だ。 ただちにやめなさい」 と抗議しました。 会社の動きがピタリと止まりました。

 この新組合員を訪ねました。

 「上司に呼ばれて 『あなたの仕事を上が評価していない。 早期退職しませんか』 といわれました。 “提案” のような言い方ですが、強要の最初の一言であることはわかりました。 すぐに知り合いの組合員に相談しました」

 「会社に必要な仕事をしているのに…」。 悔しい思いを語る話は、記者が質問をはさむ間もなく続きました。

 外資系情報機器大手、日本IBMはいま、「リソース・プログラム」(人材計画) と呼ぶ、人減らしを実行中です。 対象となるのは、成果主義による人事評価が下位10%の 「ボトム10 (テン)」 と呼ばれる労働者です。 この計画は製造、事務などのリストラ部門だけにとどまらず、全部門に及んでいます。 そして、中高年だけでなく20代、30代の労働者も標的となっています。

 同社では年1回、社員が業務目標を決めます。 会社はこれを数値化し、成果を5段階で評価します。 相対評価なので、どんなに成果をあげてもだれかに必ず低い評価がつきます。

 最も評価の高い人は1(10〜20%)、次いで2、2プラス(あわせて65〜85%)、3、4(同5〜15%)。 3、4が 「ボトム10」 です。

   7回迫る

 「ボトム10」と評価された労働者は、会社にとって役に立たない不要な人間として退職強要の対象にされます。 断っても、「辞めます」 というまで何度でも呼び出されます。 精神的に追い詰められて、泣く泣く退職に応じる労働者が何人もいます。

 1ヶ月間に7回も呼び出されて退職を迫られた体験を持つ Aさんに話を聞きました。

 「今後、人事評価は上がらない」、「他部門への異動は不可能」 と決めつけられ、「ばつがついて会社の信用を失っている」 と人格を否定する言葉まで浴びせられました。

 屈辱に耐えて一人でがんばりましたが、思い余って組合に加入しました。 組合が抗議すると強要はピタリと止まりました。

 「会社ときちんとたたかう組合があってよかった。 この会社は、組合がないと何をするかわかりません」 と Aさんはいいます。

 いま組合員は150人です。 約3分の2は、最近5年余りの間に加入しました。    (つづく)

 (以上 「1.」 の出典は  「しんぶん 赤旗」 2006年8月18日付)


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 2. 社長 “退職目標こなせ”

 日本IBM では 「ボトム10」 と評価される労働者を退職に追い込む非道なシステムをとっています。 しかし、辞めさせられなければならないような働き方だったのか?―

 3年前、退職強要を受けたBさんが悪夢のような体験を話してくれました。

 担当していたのは、公的機関で24時間稼働する情報システムの構築です。 フレックスタイム(時差出勤) で午前9時半から10時ごろに出社。

 規定の勤務は7時問36分ですが、定時で退社することはほとんどありません。 深夜まで働く日が続き、終電帰りもしょっちゅうでした。


深夜になってもこうこうと明か
りのつく 日本IBM 箱崎ビル

 土日もどちらか、あるいは両日とも出勤になることがたびたび。 24時間の稼働テストもあり週1回は夜勤。 退社後もトラブルで深夜に呼び戻されることもよくありました。


 残業が100時間を超えた月もありましたが、請求した残業代は20〜30時間分くらい。 そのくらいが請求舜できる上限だといわれていたからです。 もとより、大半の社員は人事評価を気にして請求さえしないといいます。

   「評判」 と

 退職強要を受ける前年まで6〜7人のサブチームのリーダーをしていましたが、突然はずされました。

 5段階評価は下から2番目。 納得がいかなかったので上司に抗議しました。 しかし、上司は理由を示さず 「あなたはなにもしていない」。

 納得できず、抗議を続けると 「周りの評判」 という答えが返ってきました。 だれのどんな評判なのかは示されませんでした。

 「評価なんてどうにでもつけられるわけです」 と Bさんはいいます。

 ひたすら働き続けていれば報われると信じていたBさん。 リーダーをはずされた後、突然、上司に呼び出され退職を強要されました。 まったく予想外のことでした。 強要の面談は1ヶ月あまりで7回、計10時間20分に及びました。

 精神的にも追い込まれ、一時は上司のいう通り再就職あっせん会社に行こうと思いましたが、全日本金属情報機器労働組合(JMIU)日本アイビーエム支部の機関紙 「かいな」 に相談先の電話番号が書かれていたことを思い出し、窮状を訴えました。 組合に加入し、組合が会社に抗議すると強要はなくなりました。

 成果主義で競争させ、どれだけ必死に働いてもほかの人より評価が低かったら退職を強要する。 冷酷このうえないやり方です。

   メールで

 大歳卓麻社長が管理職に送ったメールが、2002年9月ごろ JMIU支部に送られてきました。 会社のやり方に憤りを感じた管理職による告発だと思われます。 題して 「2002年リソース (編注=人材) ・プログラムの実施について」。

 「会社への貢献・業績が十分でない社員ならびに将来一層の飛躍を望めない社員を対象にリソース・プログラムを展開中ですが、残念ながら6月30日のプログラム・クローズ (同=期限) を控えて十分な結果がみえていません… インセンティブ (同=力を入れること) なしにその数をこなすということは極めて困難であり… 責職自らのリーダーシップで所期の目標を達成されるよう強く要請します」

 低い評価を付けた人を退職に追い込む 「目標」 を達成するために、もっとリーダーシップを発揮せよ、という社長のハッパです。    (つづく)


 (以上 「2.」 の出典は  「しんぶん 赤旗」 2006年8月19日付)


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 3. 「最高に腹立ってます」

 「なんとかしてくれよ」

 6月末、全日本金属情報機器労働組合(JMIU)日本アイビーエム支部の組合員に何人もの非組合員から声がかかりました。

 給与明細には、毎年この月あるはずの昇給がありませんでした。 昨年10月に発表された 「人事改革」 にもとづく新しい賃金制度のせいです。

全国大会で方針を討議するJMIUアイビ
ーエムの組合員 =7月22日、東京都内

 同支部が行ったアンケートでは、353人の回答者のうち昇給した人が 51%、昇給しなかった人が 48%でした。

 「生活設計が成り立たない」、「入社以来、最高に腹が立っています」、「社会の風潮と呼応した、弱い者いじめをする情けない会社になってしまいました」、「社員間の格差を助長する賃金制度の改悪は必ず将来破たんし、会社の地位を低下させるでしょう」

 アンケートには怒りや会社の将来を憂える声が書き込まれていました。

   開示拒否

 日本IBMが成果主義賃金を導入したのは1960年代です。 1996年には年齢別昇給分をなくし、2004年に全額が業績給となりました。 それでも、これまでは曲がりなりにも定期昇給がありました。 今年からは昇給という言葉がなくなりました。 成果主義の徹底です。

 日本IBMは、最も基本的な待遇である賃金について労組に制度を開示したことがありません。 どの職位でどのくらいの給与がもらえるのか、組合が要求しても会社は明らかにしません。

 同支部との団体交渉で、会社側は新しい賃金制度で減給や 「能力要件」 を理由にした降格がありうることを認めています。

 同支部の門池委員長は、「新しい賃金制度は昇進する人の賃上げを手厚くする一方、中程度の給与の人は昇給しなくていい、減給もありうるというものです」 と批判します。

 昨年行われた昇給では、最高が月2万1,000円アップ、最低が同200円と 105倍の格差がつけられていました。 これがもっと拡大することになります。

 1月からは降格人事が連発されています。 「職位にふさわしい仕事をしていない」 と決めつけ、職位を下げるのです。

 「降格、減給の脅しがあるので、上のようすをうかがいながら戦々恐々としながら働いている人が増えています」とある社員はいいます。

 「人事改革」 では、60歳以上の雇用延長ということで 「シニア・エキスパート制度」 が導入されました。 高年齢者雇用安定法では、会社は年金支給開始年齢まで安定した雇用を確保しなければならず、原則として希望者全員を雇用することと定められています。

   現役の5分の1

 しかしシニア・エキスパートにはだれもがなれるわけではありません。 希望時点から過去2回の業績評価が 2 (三位) 以上などの条件があります。

 成果主義で対象者をふるい分けします。 なれるのは55〜56歳。 それを過ぎたら選択できません。 選択すれば賃金は現役の4分の1から5分の1になります。

 60歳以降も働きたければ4、5年前から極端に低い賃金をがまんしなければなりません。
 しかも単年度契約です。

 会社が “業績評価が悪い” といえば打ち切りもあります。 雇用延長というものの、60歳前に辞めさせることができます。

 JMIU支部は 「雇用延長の法の精神を理解していない」 と批判します。   (つづく)


 (以上 「3.」 の出典は  「しんぶん 赤旗」 2006年8月20日付)


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 4. たたかって会社動かす

 日本IBMの営業、サービス部門の拠点、箱崎事業所(東京都中央区) は深夜になってもこうこうと明かりがついています。

 ビルの前には終電を逃した労働者を待つタクシーが並んでいます。

   午前3時

 「みなさん遅いですよ。 午前3時ごろに帰る人もいます」。 いつもここで客待ちしているという運転手はいいます。


「リストラの毒見役IBMを告発する大集会」で壇上に
勢ぞろいした日本アイビーエム支部の組合員=4月
21日、東京都内(JMIU日本アイビーエム支部撮影)


 長時間勤務を常態化させているのが裁量労働制です。 2004年3月、システム・エンジニア(SE) を中心に導入しました。 全日本金属情報機器労働組合(JMIU)日本アイビーエム支部が今年2月に行ったアンケートによると、SEの残業は月平均33時間。 50時間以上が16%。 100時間以上という人もいました。

 裁量制適用者には主任7万円、副主任5万円の裁量勤務手当が支給されるだけで、休日を除いてどんなに残業をしても残業手当は支給されません。 合法的な不払い残業です。

 JMIU支部は団体交渉や労働基準監督署への申告を通じて、「裁量のない労働者への適用は不当」 と追及し、会社側が示した47人の裁量制適用組合員のうち43人を非適用にさせました。

 労基署も動き出し、2004年12月、同社に 「裁量労働制の基準を明確にするよう」 指導票を出しました。

 これを受けて社長も2005年2月、自己の裁量で勤務時間を配分できない社員への適用を中止するよう管理職にメールを出さざるをえなくなりました。 裁量労働制適用者にも昨年11月から休日出勤手当が支給されるようになりました。

 日本IBMの社員は関連会社も含め連結で2万6千人。 JMIU支部の組合員は150人。 少数組合ですが、労働者の要求を掲げ、会社を動かしています。

 全労働者と組合を結ぶきずなとなっているのが機関紙 「かいな」 です。 週1回 1万6千部が組合員の手で、管理職を含む社員の机上に配布されます。 組合員でない労働者から年間250万円ものカンパが寄せられ、発行を支えています。

 日本IBMはいま不採算とみなした部門を労働者ごと次々に売却しています。 2003年、日立に売却されたハードディスク部門では、JMIU支部が 「社員の転籍の無効とIBM社員としての地位保全」 を求めて横浜地方裁判所に訴えを起こしています。 会社分割・労働者の転籍をめぐる裁判として全国の注目を集めています。

 滋賀県野洲市にある子会社 DTI の会社清算をめぐっては 2人の組合員が解雇撤回を求めて裁判を起こしています。

   組合員増

 いずれもたたかいを通じて組合員が増えています。 4月にはIBM闘争支援連絡会が結成され、「リストラの毒味役IBMを告発する4・21大集会」 を 1,300人を超える参加で成功させました。

 7月22日、東京都内でJMIU支部の第53回全国大会が開かれ、新組合員が紹介されました。 歓迎の拍手を送っていたBさんは3年前に加入しました。

 「まずは退職強要から逃れようと入った組合ですが、組合員になって会社が何をしようとしているのかよくわかるようになりました。 納得いかないことは職場で言葉に出していうようにしています。 未払いの残業代も過去にさかのぼって請求しました」

 新組合員は組合での活動や学習を通じて、みんなの権利を守る労働者に変わりつつあります。

                                               (おわり)


 (以上 「4.」 の出典は  「しんぶん 赤旗」 2006年8月21日付)


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