シリーズ 「職場から」    2006.7


キヤノン
大分
  工場
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       8割が非正規、手取り月13万円

 時給1,070円。 手取りは、月額わずか12万〜13万円。
 1食がそうめん1束だけの日も…… 信じられないような話ですが、日本経団連会長会社、キャノンの請負、派遣、期間工ら非正規労働者たちの生活です。



 瀬戸内海に丸く突き出した大分県国東 (くにさき) 半島。 世界最大のデジタルカメラメーカー、キヤノンの大分キヤノン安岐 (あき) 事業所 (国東市) は、大分空港のそばにあります。

 飛行機の爆音と雷鳴のなか、ずぶぬれになりながら、ポール遊びをする20代の青年たちに出会いました。 九州圏出身の非正規労働者です。 給料日2日前で金がないために、休みというのにどこへも行けないといいます。

 そのひとり、ほっそりした青年はぶちまけます。
 「ハローワークで22万円もらえると聞いたから、キャノンにきた。 最初もらった給与明細書を見て、だまされたと思った。 途中入社で出勤日数は15日だったが、手取りは10万円しかなかった」


8時間の立ち作業を終え帰宅
する非正規労働者たち=大分
県国東市キヤノン安岐事業所
 その後も、ある月は出勤日数20日で、社会保険料や税金を除いた手取りは13万円 (額面17万円)。 ある月は出勤日数18日で、12万円 (土、日曜日は休日) …。 「22万円」 とは、残業や休日出勤が目いっぱいあるときの金額でした。

 「お金がなくなると、朝、腹が張るくらい水を飲むんです。 8時間の立ち作業は、空腹でふらふら。 昼食のときは、休憩室の隅で座ってしまう」

 超過密労働のうえに、生産が目標に達しないとサービス残業も押しつけられました。

 青年たちは、「長く続けられる仕事ではないし、金がなくなる給料日前は悲惨です」 と口々に語ります。


 「スーパーで1キロ100円の小麦粉を買ってきて、フライパンで焼いた。 それだけで1週間、食いつないだ」 という青年。
 ご飯にしょうゆとかつお節をふりかけただけ、それも茶わん1杯で3日間すごしたという青年。
 10束198円のそうめんを買い、1食1束だけという青年…。

 それでも青年たちは、12万円ほどのなかから、キヤノンをやめて自立するための貯金や実家への仕送りをしています。

 大分キヤノンには、安岐事業所と大分事業所 (大分市) があります。 両方で約6,000人が,働いており、このうち非正規労働者は8割を占めます。
食事は、「水だけ、そうめん1束だ
け、小麦粉を焼いたものだけの日
もある」 と話す非正規労働者たち

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 経営トップ 御手洗・経団連会長

   これがあなたのいう 「希望の国」?

 キヤノン会長で、5月に日本経団連会長に就任した 御手洗 (みたらい) 冨士夫 会長は、「イノベート (革新) 日本」 を主張し、「終身雇用は…日本人に向いている」、「希望に満ちた国にしたい」 などともいっています。

 青年たちがいいました。 「おれたちのどこに希望があるというのか」

 キヤノン
本社は、東京都大田区下丸子。 国内の連結従業員は4万8637人。 創業は1933年。
プリンター、カメラ、複写機などが主力製品。
2005年の連結売上高は3兆7542億円。
デジタルカメラの世界シェアはトップの20%。


高収益支える セル方式と非正規労働

   作業台 わずか60センチ幅

   秒単位で 汗もふけず

   通路に 歩く速さ表示


 6期連続で増収・増益――キヤノンのもうけは日本の大企業のなかで飛びぬけています。 2005年12月決算の純利益は3,841億円で、日本の製造業で4番目です。

 「御手洗さんが日本経団連会長になったのは、増収・増益の経営手腕が評価されたから」 (日本経団連にくわしいジャーナリスト) といいます。

 高収益の秘密の一つが非正規労働者の多さであり、もう一つが複数の作業者が多数の工程をこなすセル (細胞) 生産方式です。

 同方式は、1〜20人くらいのグループで多数の工程をこなし製品を組み立てること。

 ベルトコンベヤーのように、部品を組みつけながら仕掛かり品 (完成前の製品) をコンベヤーに流すのではなく、作業台で部品を組みつけ、隣の作業台へ仕掛かり品を置きます。

大分キヤノン安岐事業所に請負会社のバス
(左) が入っていきます = 大分県国東市

 キヤノンは、1998年にセル生産方式を導入。
 2002年までに全世界の54工場すべてを同方式に変更しました。

 大分県国東市の安岐事業所。

 デジカメのセル生産ラインは、キャスター (足) のついた、幅約60センチのプラスチック作業台がずらりと並んでいます。

 非正規労働者たちが肩と肩をふれあって作業をしている姿は、まるで養鶏場のようです。

デジタルカメラのセル生産ライン = 大分キヤノン大分事業所
(キヤノンのパンフレットから)

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 「肩や腕が隣の人にぶつかる。 そのたびに 『すみません』 と謝ります。 最初はびっくりした。 組み立てた部品を、ポイと手で隣の台に置くんです」 と非正規労働者(26)。 立ち作業のうえに、同じ作業のくり返しのため、ストレスから腸炎になったといいます。

 40代のベテラン正社員はセル生産について、「トヨタ生産方式に学んだもので、“歩くのはむだ”、 “手を伸ばすのもむだ” といって 『生産革新』 をすすめた。 隣の人にすぐに渡せるようにプラスチック台の幅は60センチしかない。 その台は仕事の内容に合わせて自由に組み合わせができる」 と語ります。

 生産量が目標通りにならないと、真っ赤な帽子に 「革新」(イノベーションの意味) と書いたセルリーダーらでつくる部隊が登場。 セルラインの組み合わせなどを変えていきます。

 「秒単位の仕事のために、ちょっとでも作業が遅れると、隣から 『おい、(部品を) 渡せ』 という言葉が飛んでくる。 汗をふく時間もない。 部品にゴミがつくと、ゴム管から出る空気で飛ばす。 汗もこれで飛ばすんですよ」 と非正規の青年は苦笑いします。

 工場には、歩行が遅いと赤字でスピードが表示される通路まであります。



川上ひな子さん(立っている女性)が働い
ていた大分キヤノン大分事業所=大分市

 健保、年金に入れず
       大分事業所で働いた女性は…

 大分市内にある大分キヤノンの大分事業所は、2004年末に操業を開始した新工場です。 川上ひな子さん=仮名=(29) は、業務請負会社の大手、日研総業の請負労働者として、ことし2月からデジタルカメラの組み立て作業を続けてきました。

 日勤は午前6時〜午後3時。 夜勤は午後5時から午前2時。 1週闇ごとに日勤、夜勤をくりかえします。 時給は1,000円。

 ひな子さんの仕事は、クリーンルームで防じん服を着て、小さなデジカメのパネルと電極部分をくっつける作業でした。 細かくて神経を張りつめた仕事で、1台21〜22秒でこなさねばなりません。 1日のノルマは1,000台。

 「機械の調子が悪く、1,000台のノルマがむずかしくなると、休憩時間もなくなり、日研総業のリーダーと懸命にノルマをこなしました」

 求人誌にキヤノン工場で “月額23万円” とありましたが手取りは12万円前後でした。

 健康保険や厚生年金などに加入したいというと、「2万円差し引く」 と日研総業にいわれました。 「手取りが少ないので払えなかった」 といいます。

 同社の求人広告には 「各種社会保険完備」 とあるにもかかわらず――。


請負会社の広告には、「月収21万円
以上可」 と過大な数字がでています

 「キャノンだったら安定している、と思ったのがまちがいでした。 もう、やってられない」。 7月中旬、ひな子さんは日研総業を去りました。

 請負会社の寮を歩くと、「2ヶ月でやめた人がいる」、「今日で3日目だが、あした郷里の鹿児島に帰る」 という声を聞きました。 青年たちは、低賃金と過酷な労働で使い捨てられています。



  正規雇用こそ増やすべき        日本共産党国東市会議員 白石徳明さん

 キヤノンは安岐事業所の一角に新工場を建設中です。 600人の新規雇用が生まれるといいます。
 私は、国東市に合併する前の3月安岐町議会で、町長に 「町は、新工場建設にあたって、駐車場用地をキヤノンに安く提供している。 地元雇用優先、非正規雇用ではなく、正規 (正社員) 雇用をふやせとキヤノンと交渉すべきではないか」 と質問しました。
 町長も 「できるなら正規雇用の方がいい」 と答弁しました。
 使い捨ての非正規雇用をやめさせるよう議会でも地域でも運動していきたい。

 出典: 「しんぶん 赤旗・日曜版」 2006年7月23日付)

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