トピックス   シリーズ 「職場」    2006.5
“成果主義”追って −東京の
  公立学校−
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 東京都教育委員会が公立小中高の一般教職員を 「業績」 による評価で管理する 「人事考課制度」 を導入したのは2004年4月。 全国に先駆けて評価を賃金に反映させるなど、「成果主義」 の評価方法を年々厳しくしています。

  中位なし

 「今年から校長によるSABCDの5段階評価を、ABCDの4段階に改める」。 2006年2月、都教委は 「人事考課制度の改正について」 とする文書を出しました。


 評価付け実習…校長悲鳴

 「中位(真ん中) をなくしたんです。 どうしても評価がBに集中する傾向がありましたから」。 都教委勤労諜は説明します。

 東京都教委の「自己申告書」。 裏面は
異動希望の申告書になっており、都教
委は 「提出しなかったものは異動につ
いて一任したとみなす」 としています

 今後は A(優秀) B(良好) C(もう一歩) D(奮起を期待)。 「良好」 の次は 「もう一歩」です。 「普通」 という評価はありません。 最下位の 「D」 と評価されれば、翌年の昇給幅が25%圧縮されます。 「C」 と 「D」 は 「指導・育成」 の対象です。

 一方、成績上位者には、都教委が認めれば25〜50%が昇給に上乗せされます。 強まる競争と格差。 「より効果的な教職員育成のため。いい制度ができたと思っている」 と都教委は胸を張ります。

  ◇◇◇

 「これは大変だ。 いったいきちんと評価などできるのか」――。 制度が導入されたとき、都立高校長だった男性(62) は戸惑いました。 それから3年間 「評価者」 を務めた体験から 「基準があいまいで、客観的な評価などできない。 当初ら仕組みは破たんしていた」 と振り返ります。

 校長は 「すべての教職員の年間の行動記録を作れ」 と指示されました。 会議での発言、生徒の問題行動への対処など 「すべて」 が対象です。

 年度末、記録された教師の行動一つひとつを 「学習指導」 や 「生活進路指導」 などの4領域に分類します。 それを3つの観点 (能,力、意欲、実績) のどれに該当するか当てはめ、A〜D の評価をつけます。

  東京都教育委員会の
  「人事考課制度」

 2000年4月に実施。 企業の成果主義賃金制度で用いている 「業績評価」 という言葉を導入しています。 各教職員が年間目標などを書いた 「自己申告書」 を提出し、校畏と副校長による面接指導や 「授業観察」 などがあります。 校長はこれらを基に、年度末に教職員を評価します。 都教委は 「教員の能力を向上させる仕組み」 と説明しています。
  主観的に

 都教委は導入時、「評価者訓練」 として校長らを集め、架空の教員をサンプルにして評価の実習を行いました。 校長らは4、5人のグループに分かれ、実際に評価をつけてみました。

 「評価は4、5人ばらばら。 当たり前ですよ。 主観的にならざるをえない」

 教職員の行動をすべて記録するのも 「不可能です」。 訓練の講師役だった都教委の職員も 「できっこありませんよね」 と漏らしたといいます。

 都教委は 「誰が評価しても同じ結果になる」 システムを構築する、と説明しています。

 そのために 「評価者訓練テキスト」と題する数百ページの詳細な 「評価マニュアル」 を作成 (非公開)。 毎年の訓練で校長らに 「みっちりたたき込んでいる」 (都教委) といいます。

 元校長は、「不可能でかつ意味不明なことを強要され、まじめな人ほどヒイヒイ言っている」 と実態を語ります。


 そんなことするとD…

 制度で学校の現場はどう変わったのか。

 元校長は、「『評価する者』 と 『される者』 に明確に分けられ、緊張が高まった」 と話します。

 職場で、教師同士が 「そんなことしてると D になるよ」 と冗談めかして言い合うのを聞いたといいます。 「日常のすべてが評価対象になるという感覚が教職員の身に付いている。 生徒よりも管理職に目を尚けて仕事するようになる」

 一方、都内の中学校の男性教諭(48) は 「最近、『こんな学校づくりをしたい』 というビジョンを持った校長が減った。 校長自身がトップダウンの評価に縛られ、忙殺されているように見える」 と語ります。

  「降格」 も

 鍵は1994年、一般教職員に先立って校長、教頭(現副校長) に対する業績評価制度が導入されています。 評価するのは都、区などの教委。 成績によって期末手当に10万円以上の格差がつきます。 一般教職員への 「降格」 を勧告する制度も導入しました。

「人事考課制度」 導入で 「生徒に目が向
かない教師を生む」 と批判が出ています
(写真と記事は関係ありません)

 「まず校長をぎりぎり締め上げ、声を上げさせた上で、一般教職員に導入した。 差別される人間は差別をするということです」 と元校長。

 東京都教職員組合の聞き取り調査では、職員から 「校長も教員への面接や出張で忙しく、子どもの様子を見たり校内を回るひまもない」 との指摘があがっています (パンフ 『教職員の人事考課』 2006年4月)。

  従わせる

 都教委はこの間、都立高卒業式での 「日の丸・君が代」 強制で教職員を大量処分し、職員会議での挙手・採決禁止を通知するなど、学校現場での 「上意下達」 体制を徹底しようとしています。

 人事考課制度もその中で導入されました。 学校支配を強める 「有用な道具の一つ」 と言えそうです。

 元校長は言います。

 「都教委が狙うのは、特定の政治路線に従った教育を貫徹するために、従順なスペシャリストを養成し、異論を唱える者を排除すること、これが本質だと思うし、現にそうなっている」

 出典: 日本共産党発行の 「しんぶん赤旗」 2006年5月24日付


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