トピックス          2008.8

【続報】キヤノン
 
 男性研究員過労自殺に至る実相
「職場で仕事できるのは午後10時まで」
 
実態は 月200時間超す残業、
     54日連続勤務、
     自宅で徹夜作業を続けた果てに…

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                            【既報】 キヤノンの研究員自殺…労基署が労災認定!


 キヤノンの研究者が鉄道に飛び込んで自殺しました。 厚生労働省はこの 6月、過労自殺として労災認定しました。 自殺の原因を探っていくと、巧妙な時間外労働の仕組みが浮かんできました。 (岡清彦記者)

 富士山を背にして山の中を車で登っていくと、突然、研究所の巨大な建物が見えてきました。 「キヤノン富士裾野 (すその) リサーチパーク」 (静岡県裾野市) です。

 研究所で電子写真の技術開発をしていたさんは2006年11月、研究所に近いJR御殿場線に飛び込みました。 37歳でした。

 アメリカのカリフォルごア大学に留学した経験をもつ人で、サブリーダーとして後輩の指導もまかされていました。

さんが働いていたキヤノン富士裾野リサーチパーク =静岡県裾野市

 
  労災認定された過労自殺!

     月200時間超す残業、54日連続勤務、

     自宅で徹夜作業を続けた果てに…


  会長の肝いりで
 幹部社員が語ります。

 「さんが研究していたのは、“デジタル商業印刷機” というキヤノンの戦略商品です。 開発が遅れていたため、御手洗冨士夫会長が急がせていました」

 “デジタル商業印刷機” とは、これまでのように版を製作して印刷するのではなく、データを直接、印刷する方法で、パンフレットなどの印刷に使われています。

 御手洗氏が日本経団連会長に就任したのは06年5月。 この当時からさんの超長時間残業が激しくなっていきます。

 死亡前の半年間、さんはすさまじい残業を続けていました。

   108時間 (06年6月)
   106時間 (同7月)
   79時間 (同8月)
   212時閤 (同9月)
   183時閻 (同10月)
   263時間 (同11月)。
   54日間連続勤務もあります。

  成果展に追われ

 11月に263時間もの残業があったのは、研究者が1年間の研究を発表する 「成果展」 が開かれたからです。

 開発部門の管理職が語ります。

 「 『成果展』 では、発表される研究が製品として生かせるかどうか、開発部門から注目されます。 質問も受けます」

 さんがあたえられた研究は、プリンターの印刷を鮮明にするために、どのような角度でインクを吹き付けるかを分析・検証するものだったとみられます。

 パソコンでシミュレーション (起こりうる可能性を検証) する仕事でした。 実験をして検証する “目に見える” 作業を続けてきたさんにとって、なじみの薄い分野でした。

 しかも、東京の本社や茨城県取手市の事業所との調整のために、しばしば出張していました。

 キヤノンでは、職場で仕事ができるのは午後10時まで、とされています。 なぜか。 先の幹部社員が説明してくれました。

 「キヤノンはサービス残業の疑いで厚生労働省から指導をされたことがあった。 外向けに過重な労働をさせてはいない、ということを見せるためにとられた措置です」


午後10時過ぎに帰宅するキヤ
ノン本社の社員
=東京都大田区

 しかし、さんの自宅にあるパソコンには、作業を終了した記録が残っています。

   午前3時56分 (9月30日)
   午前4時52分 (11月16日)
   午前6時57分 (11月22日)―― 。

 会社を出てから自宅に仕事を持ち帰り、徹夜するなどしていたのです。

 「成果展」 が近づくと、さんは 「当日、雷でも落ちればいいのに」 といって、周囲の人を驚かせました。 ほかの研究者からも 「海外に脱出しようか」 「大地震が起きないか」 の声があがっていました。

 さんの目は充血し、頭痛、肩こりを家族に訴えました。 それでも 「成果展」 では、質問に明確に答えられなかった場面もあったといいます。

 せっぱつまったAさんは、「成果展」 の翌日に退職願を提出。 明くる日に自殺しました。



  労災申請した妻

 さんの妻は、過労死弁護団全国連絡会議の川人博幹事長に相談し、07年3月、静岡県沼津労働基準監督署に労災を申請していました。

 妻は、「キヤノンでは、残業が慢性化していて、主人は成果展に向けて必死に努力していました。 主人の自殺が労災と認められて、ほっとしているところです」 と語っています。

 本紙は、キヤノン内部で社員にこう説明していることをつかみました。

 「遺族の弁護士が、『亡くなる前の1ヵ月の時間外が263時間』 などと説明し、報道された。 当社の認識とはことなることが多々ふくまれている」

 自宅作業に追い込まれたさんの労働時間を加えていないのか―― 。

 こうした説明について川人弁護士が語ります。

 「労基署の労災認定をキヤノンは厳粛に受け止め、襟を正すべきです。 経団連会長会社としては、著しく反省が足りないと思います。 社員の健康を大事にすることを期待して、今回の労災認定を公表しました。 職場の改善を求めていきたい」

 出典: 日本共産党発行の 「しんぶん赤旗 日曜版」 2008年8月10日付

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