厚生労働省は9月4日、製造現場はじめ各職種で問題になっている違法労働・偽装請負の防止、解消をはかるために各県の労働局長に対し初の通達を出し、指導、強化のとりくみを指示しました。
労働基準局長、職業安定局長名によるもの。
指示内容は、広報の強化とともに、
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職業安定行政と労働基準行政とが情報を共有し、製造業の大規模事業所などに共同監督を計画的におこなう、 |
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安全衛生法に違反して死亡災害を発生させた場合、事業主にたいして司法処分はじめ厳格に対応する、 |
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直接雇用を実現して喜ぶ光洋シーリングテクノで働く
請負労働者 =9月1日、徳島県藍住町の工場前で |
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違反事業者にたいし全事業所へのいっせい自主点検を求め、違反を繰り返す事業主には行政処分をおこなう、 |
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製造業以外の職種に同様の措置をとる、 |
―― としています。
トヨタ、松下、キヤノンという日本を代表する企業やその系列での偽装請負が社会問題化しています。
劣悪な労働条件やルール無視の実態を告発する労働者の勇気あるたたかい、日本共産党の国会質問などによって、手直しを迫られる企業が相次いでいます。
川崎厚労相も、「国会で随分質問をいただき、偽装請負は是正を求めていかなければならない」(8月の記者会見) とのべていました。
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偽装請負は、実態は派遣労働者でありながら、請負であるかのように働かせているもの。
厚労省の調査では、2005年に監督に入った請負事業者879件のうち616件、発注者660件のうち358件で違反がみつかり、是正指導をしました。
(左のグラフ)
一掃へ流れ加速
(請負労働者の告発とたたかいにより) 偽装請負を許さない世論が大きな流れになっています。
「偽装請負を是正するための通達はこれが初めてです」。
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厚生労働省の担当者は、9月4日付で同省が都道府県労働局長に出した通達について、こう説明します。
通達は、「製造業の大規模事業所」 などで 「偽装請負が少なからず見られる」 と明記。 この就労実態について 「職業安定法及び労働者派遣法に抵触する違法行為である」
と指摘しています。
その上で、違反事業所のいっせい自主点検、違反を繰り返す事業主への行政処分など、監督指導の強化を指示しています。
同省の現状認識の根拠は、2004年9月に請負労働者も対象に実施した 「派遣労働者実態調査」 や、事業所への立ち入り調査です。
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実態調査によると、製造業で働く請負労働者は全国で86万6千人。 製造業以外も含めれば、これをはるかに上回るとみられます。 同省が立ち入り調査をした事業所のうち、是正指導をした件数の割合も年々増えています
(上のグラフ)。

全労連などが開いた「偽装請負を告発するシンポジウムと集会」
には全国から多数の労働者が参加=7月30日、徳島県板野町 |
立ち入り調査のきっかけは 「労働者などからの情報です」 (同省の担当者)。
ここにも労働者のたたかいが反映しています。
全国労働組合総連合 (全労連) は8月8日、「偽装請負の告発を強め、その一掃はもとより、派遣・請負で働く多くの仲間の雇用・賃金・労働条件の改善をめざした取り組みを強める」 と宣言。
日本労働組合総連合会 (連合) も8月25日、「偽装請負一掃の取り組み」 を確認しています。
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日本経団連の御手洗冨士夫会長 (キヤノン会長) は8月13日、偽装請負の解消策を検討する方針を明らかにしました。
間接雇用が格差を生む
… 龍谷大学教授 (労働法) 脇田 滋 さんのコメント
偽装請負は、戦後の民主化で職業安定法により禁止された「労働者供給事業」=「間接雇用」=の一種です。 労働者を働かせて一番利益を受ける工場経営者などの 「使用者」 が、雇用上のすべての責任を持つべきだというのが、戦後の民主的労働法の原則です。 偽装請負は、請負という法形式を装ってこの 「使用者」 の責任を免れようとするもので、戦後民主主義の精神に反しています。
戦前の日本では 「組(くみ)請負」 と呼ばれる 「間接雇用」 が横行していました。 組の親方と工場の経営者が請負契約をし、組が労働者を供給するやり方で、労働者は無権利な状態に置かれました。
偽装請負は、この雇用形態を財界と自民党政府が、脱法的に復活させ広げてきたものです。 1986年施行の労働者派遣法は、法的手続きを踏むという条件で、この
「間接雇用」 を一部だけ合法化しました。
欧州では、派遣労働などの 「間接雇用」 労働者は、一定期問働いたときや無許可派遣の場合には、自動的に 「直接雇用」 とみなされます。 賃金も正社員と同等か、それ以上とされています。
日本は逆で、偽装請負を人件費削減のために使い、無権利で低賃金の 「使い捨て」 労働者をつくっています。 それが格差社会の主な原因になっています。
光洋シーリングテクノのたたかい(*) は、「間接雇用」 をなくすうえで、労働組合などの力が大きいことを実感させました。 ぜひ、この運動を大きく広げてほしい。
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これが“偽装請負”だ!
光洋シーリングテクノは、午前7時から午後2時51分までの 「早出」 と、午後2時39分から午後10時30分までの 「遅出」 の2交代制です。
丸い金属とゴムをプレス機で接合し、手直しする仕事です。 40度を超える高熱職場です。
トヨタなどから “かんばん” と呼ばれる注文票が届きます。 テクノは、トヨタの生産拡大によって4年連続で過去最高の売上高を更新。
遅出は、「5時間の残業もあり、家に帰ると午前4時」 (桑原さん、24歳) という過酷な労働です。
どんなもの?
テクノで働く請負労働者のたたかいは、偽装請負の告発から始まりました。
偽装請負とは、どんなものなのか――。
テクノの労働者は、たとえば 右の図 (2005年1月当時) のように配置されたプレス機で働いていました。
仕事を指揮・命令するのは、請負会社ではなくテクノ社員の班長です。
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この職場には、テクノ社員とクリスタル系の請負会社のコラポレート (当時はダイテック。 2006年1月撤退、労働者はスタッフクリエイトへ移籍) や別の請負会社のマイオールの労働者とが混在で働いていました。
請負会社が、ある仕事を企業から請け負った場合、請負会社の人間が請負労働者を指揮・命令しなければなりません。 にもかかわらずテクノは、社員が請負労働者を指揮・命令し、そのうえ正社員と複数の請負会社の労働者を混在で働かせていたのです。
テクノと請負労働者との間に指揮・命令関係がある場合、法律上は労働者派遣になります。 みかけは請負なのに実態は労働者派遣。 それが職業安定法と労働者派遣法に違反した偽装請負です。
請負では、完成した製品に対し企業が請負会社に代金を支払わねばなりません。 請負代金が、労務単価×人数×日数(時間) となっている場合は、単なる肉体的な労働力提供となり、これも違法です。
テクノは、男性労働者は時給1,700円で請負代金を支払う違法行為をつづけていました。
(約400人の正社員にたいし、請負労働者が約200人います。 時給は 1,100円程度で、正社員の3分の1という低さです。 残業がないと、年収は200万円台。
ワーキング・プア(働く貧困層) の典型です。 請負労働者の告発とたたかいにより、偽装請負は労働者の低賃金化と雇用不安を招く違法行為として解消を求める声が強まる中、会社(テクノ)は請負労働者約200人のうち59人を正社員登用を前提とした6ヶ月間の契約社員にし、さらに29人を派遣契約に切り替えることにしました。)
違法をなぜ? 大企業の責任逃れ!!
では、なぜ違法な偽装請負がおこなわれるのか? 労組分会長の矢部さんは指摘します。
「賃金が安く、しかも使い捨てができること、それにテクノの企業責任をまぬがれることができるからです」
派遣では、労働者派遣法が適用されます。 この場合、同一職場で労働者が1年間 (来年3月からは3年間) 働けば、派遣先企業 (テクノ) に労働者を直接雇用する義務が生じます。
また、労災事故は派遣先の企業の責任が問われます。
しかし請負には、監督官庁も規制する法律もありません。 テクノなどの企業の責任が問われず、請負会社の責任にされます。
液晶テレビを生産しているシャープ亀山工場 (三重県) では、工場内の労災事故が、請負会社内で起きたかのように報告書が偽造されました。
さらに、キヤノンや松下電器など大企業で、相次いで偽装請負が発覚。 大企業は無法地帯になっています。
道開いた労組の力
テクノでは、10年以上にわたって偽装請負がつづけられてきました。
労組は、徳島労働局にテクノへ直接雇用の指導をすることを要請したり、集会を開くなどして、テクノを追いつめてきました。 また、日本共産党国会議員団が現地調査をしたり、国会で取り上げてきました。
こうした労組の2年間のたたかいを 「しんぶん赤旗・日曜版」 が報道し、直接雇用への道を開いたものです。
黒坂さん(26)は、「みんな、仕事の実力は正社員なみにある。 正社員になれば、もっと前向きに仕事ができる。 世界のトヨタやテクノにとっても損はないはずですよ」
といいます。
仲村さん(34)は、「直接雇用の実現で将来展望が開かれたと思いますが、まだスタートラインに立ったところで、全員を直接雇用にすることや正社員化への課題は山積みです」
と気を引き締めます。
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